1953年7月29日37歳で亡くなった洋二郎を偲んで、命日を、ある画家さんが名付けてくれました。
水蜜桃(すいみつ)忌。
何故桃なのでしょうか?
『同時代』7号の宇佐見英治の追悼文の中に、最後のクレパス画個展最終日に喀血した後、下落合の安宿で寝付いてしまった洋二郎のことが出てきます。
・・・涼しく光っていた眼はもう昨日のいきいきとした輝きを失 って、魂を抜かれた人形のように、表情だけが彼の上に紋様をつくっていた。真底から力が抜けたようだった。・・・
「走り使いぐらいはできるから、何かいるものがあったら買ってこよう」と言う宇佐見氏に、洋二郎は
「ありがとう。もうれつにーーが食いたい」という。
聞き取れなかった宇佐見氏が聞き返すと、
「スイミツ、水蜜桃のようなものが食べたいんだ」と答える。
スイミツを手に入れ、他に、チョコレート、サイダー、カルピス、コッペパン、ウエファース、大福などを風呂敷に包んで、宇佐見氏は宿に戻る。
洋二郎は、サイダーをごくごく飲み、大福を食べる。その大福は、宇佐見氏が食べるつもりで買ったものだった。
そんな宿での様子から、洋二郎の命日を「水蜜桃(スイミツ)忌」と名付けてくれたのが、画家の武田桂さんだったのです。
大きな香り良い桃を贈ってくれた方がいて、早速お供えしました。
直子
